日本学校演劇教育会関西支部の日記

演劇と教育の発展とその深化を進めていきたいと考えている活動を記事にしています。

高校生のための創作脚本連続講座第7回の報告

5月から始めた「高校生のための創作脚本連続講座」の最終回を行いました。
秋の演劇コンクールのシーズンが終わり、期末テストも一段落したこの時期に、7回の講座と、今年脚本創作に挑んだ自分自身をふりかえり、あらためて脚本創作とは何だろうかということを考えてみようというのが最終回の大きなテーマでした。
今年の大阪府の高校演劇コンクールには、講座受講生の作品(個人創作のほかに、他の部員との合作、顧問との合作なども含め)が6本ありました。大阪府大会や、近畿大会に進んだ作品もありました。地区大会で創作脚本賞を受賞した作品もありました。
まず、午前中はそうした作品を作者自らがふりかえって、次の項目について報告しました。
①作品の概要、②創作意図・主題、③構想・書き始め・完成までの時期、④苦労・苦心したところ、⑤上演後の観客・審査員の評価、⑥創作後のふりかえりとしての感想
作品は当然のことながら多様でした。
自分たちが学んでいる環境、社会背景から問題を掘り起し、「貧困」を見つめつつ、自らの将来、進路、夢を考えようとした作品、ばらばらな状態だった者たちが共同で作曲していく過程でそれぞれが夢を持っていいのだと歩み出す姿を描いた作品、突然に夢を断たれてしまった高校生が「死にたい」と思ったがために迷い込んだ「終活」学校で生と死のはざまから生きることを見つめようとした作品、人間の感情育成のために製造されたロボットを育てようとした若者が、実はロボットであり、そのロボットゆえの問題により感情を少しずつ獲得していく近未来の人間を描いた作品、小学生・高校生そして母子の烏が登場する設定で、等身大の視点から将来、夢についてリアルな言葉を用いて描こうとした作品。
報告では、創作の過程で部活動の中で苦しんだことや、行き詰った時に部員からの意見やアドバイス、時には空白の台詞を渡し、役者に台詞を考えてもらうように投げかけてみたり、個人創作も集団創作も部活動の中でつくられている特徴を背景としていることが共通して出てきました。
そして、これらの報告を聞いて、グループ討論を行い、各作品報告への感想や意見のほか、質問事項などを出し合いながら討議の内容をまとめていくと、何より一本の脚本を書き上げるということが大事だということ、身近なことを題材にしてテーマを絞り、伝えるべきことのリアリティを考えようとした作品だったが、ご都合主義に走ってしまう問題点や、作者の意図を部活全体で共有することの難しさなどの問題点も指摘されました。しかし、書きはじめの時期や、構想の契機などはそれぞれ全く異なるのに、作品の主題、意図に、高校生である自分たちの現実から問題意識が立ち上がって、創作が始まっていることが明らかになりました。将来の夢、進路、人間関係のあり方。それらが異なる作品として今年の秋に各校で創作され、上演されたのです。この点を手掛かりとして、午後には今年の脚本講座をふりかえるグループ討議を行いました。
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討議の柱は、①脚本講座で学んだこと ②脚本講座でもっと学びたかったこと ③創作脚本、脚本創作とは何だろうか の三点です。
各グループの討議の結果を書きだして、写真のように報告しました。
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共通することや要点を整理すると次のようになります。
①について 
台詞のリアリティ 設定の大切さ テーマ、伝えたいことを極めるために関心を広げ、ネタを集める
②について
題材として取り上げられた戯曲の舞台を見たかった 創作までの時間はあったが、書いた後のフォローの時間が少なかった ト書きや台本の書き方の具体例など
③について
今の自分だからこそ伝えたい、描きたい世界を伝える、描くことができるもの 自分がやりたいことを正直に表現できるもの 他人にも考えてほしいこと、共感してもらえるように表現できるもの
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そしてこのふり返りを報告した後に、15年ほど前に行われていた創作脚本講座の受講生で、現在は無名劇団の劇作家である中條岳青先生に講演をしていただきました。演題は、「「高校生の創作脚本」について思うこと」でした。
ご自身の高校時代の思い出や、母校で指導者としてかかわった演劇部のために書かれた作品「あげとーふ」で全国大会に出場され、国立劇場での公演、そしてNHKでの放映でのお話、さらにはその後劇団を作られて創作を続けておられる現在でのお考えなどを披露されながら、受講者のまとめたふりかえりに対して具体的で多面的なアドバイス、あるいは劇作を専門とするようになってから考える視点からの異なる見方など、次々とお話をしていただきました。受講生はそのお話を食い入るように見つめて聞き、そして少しでも心に響いたことがあればすぐさまメモをとり、それぞれに大きな示唆をいただいて持ち帰ることができたようです。
大阪府下の様々な地区から集まってきた受講生たちの脚本講座は以上で終了しました。
最後の7回目、何より際立ったのは、受講生たちの討論の様子が格段に質的な変化を遂げていたことでした。作品の報告に対しても、講座のふり返りについても、それぞれに確かな経験、実感があり、それを基盤として討議し、討議の過程で問題点を浮かび上がらせ、討論に加わっている一人一人に自らの位置と存在を明らかにさせ、そこから新たに相互作業として見解を構築していこうとする動きがはっきりと見えてきたことです。議論の深まり、広がり、高まりと言うものを受講者の誰もが実感できたのではないでしょうか。笑顔で会場となった淀川工科高校を去っていく受講者を見ていてそう思いました。
年明け1月には、受講者の最終ふりかえり文が提出され、それらをまとめて今年度の講座の記録を冊子としてまとめようと思っています。