日本学校演劇教育会関西支部の日記

演劇と教育の発展とその深化を進めていきたいと考えている活動を記事にしています。

滋賀県高校演劇リーダー合宿研修に行ってきました

8月8,9日の一泊二日間で行われた第38回滋賀県高等学校演劇夏季リーダー合宿研修会に行ってきました。
場所は、びわ湖湖畔の長浜市勤労者総合福祉センター「臨湖」という会場。
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目の前のびわ湖には、滋賀県のすべての小学生が一度は体験乗船するという「うみのこ」号が停泊していました。
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滋賀県内の高校演劇部員である1,2年生が、演技の基礎、基本を二日間の合宿研修で学び取って、それを一本の芝居を作り上げて上演する過程で実践、体験していくという内容です。
参加生徒は、12校42名の部員諸君。先生も多数参加されました。
初日の午前中は、演技に関するレクチュアを導入として、「聞く」「見る」「話す」の原点を再確認するためのいくつかのゲームを行いました。広い体育館を使ってテンポを変えて歩いてみることや、名前を呼び合ってボール投げをしたり、インプロゲームの「私あなた」を行ったりしているうちに、昼休みになりました。
午後は、食後で眠たくなることもあるので、身体を使った活動を中心に、からだほぐしをゆっくり行って、呼吸と発声の基礎へと進みました。
深い呼吸と響く声、そして届く声というものをどんな方法で自分の活動として体感できるかという事を主眼において、こちらも1時間半ほどの限られた時間の中で、レクチュアを加えつつ要点を絞って行いました。
そして、参加者を三つの班に分けて翌日の上演に向けた活動へと進みました。
上演作品は、「アニータ・ローベルのじゃがいも母さん」(土田峰人作)。とても全部の上演はできませんから、劇中劇の中の一部を選抜して、各班が分担して上演することにしました。
まずは分担する場面を決めて、読み合わせをし、配役を決めました。
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その後、宿舎である国民宿舎豊公荘に移動。夕食後、「じゃがいも母さん」のビデオを全員で見て、さらに午後11時まで、各班の練習となりました。
翌日、中には早朝からびわ湖畔のランニングに出かけたり、発声に出かけたりする元気な生徒もいる中で、再び会場を「臨湖」に移しての活動となりました。
まずは全体活動で、ウォーミングアップを兼ねて、緊張と緩和の身体行動、強弱の身体行動、身体行動の方向性など、その後の上演に必要となる活動を約40分程度行いました。
そして、上演に必要となってくる声の距離と方向性について、会場の体育館の空間を意識して体験してみようという事を行ってみました。この過程で、いわゆる感情表現というものにも、対象と必然、そして身体反応というものがあるという事を意識するため、台詞の中にある「やめろ」「母さん」などの短い台詞を、全員で密集した集団の隊形を取って、客席最後方から舞台に向かって発してみるという事を行ってみました。
そして、上演する場面の後半シーンは、42名全員の発表にするため、各班の役割を新たに追加して、班別の稽古に移りました。
体育館には少し張り出した舞台があったので、これを舞台装置に見立てて、フロアーと舞台の二段階の演技ができるように各班の工夫が始まりました。
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時間を区切って、各班が均等に舞台練習できるように割り当ててもらって、午前中に1回、午後にも1回の舞台練習を行い、舞台練習ができない時は別の会議室などで稽古を重ね、本番上演に進みました。
歌も何曲かある作品なのですが、二日の間にそれもマスターして、劇中劇の場面が順番に上演されていきました。どの班も確実に練習の成果を発揮して、まとまりのある、そしてしっかりと相手と観客に伝わる自己表現を行う上演に変化していました。
息子の二人が対立した国の指揮官になり、飢えた人々はその指揮官に率いられてゃがいも母さんの家にやってきて、食い物である芋をめぐって悲惨な奪い合いを始めます。
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その争いの中、兄弟は母さんを刺してしまったように見えたのですが、母さんは死んでいませんでした。
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母さんは息子たちを抱き寄せ、芋を食べさせ、国の人々にも芋を分けて、自分たちの母親のところに帰るように言いました。そして、壊れた家を建て直しました。
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実際にはわずか一日で仕上げる舞台。衣装も小道具もなく、どの班も各校混合編成なので、ほぼ全員が初対面という条件の中でしたが、通してみると、作品のメッセージが伝わる舞台となっていました。
上演後は、各班で振り返りの話し合いを行いました。どの班もとてもにこやかで、晴れやかな話し合いでした。「こんなことできるのか」「初めての人ばっかりで本当に心配やった」「でも練習が楽しかった」「いろいろな人と話したり、意見を出し合えるなんて思ってへんかった」「やってよかった」「達成感があった」
班の話し合いをそばで聞いていて聞こえてきた声でした。
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一泊二日の研修は以上で終了でした。
最後のまとめとして述べたことはこんなことでした。

これで演技が上手になるという事ではありませんが、演技をするという事はどういうことなのかを考える機会にしてもらえればと思い、進めてきました。そして、その結果、参加した皆さんは、それぞれの目標、課題を意識して、班の練習に参加し、稽古を重ねるたびにその目標と課題を克服する過程を体験しました。それが本番の舞台に見事に発揮されていました。
この作品は、ナチスドイツによって収容所に強制収容されていくユダヤ人、ポーランド人の物語で、そうした過酷な運命を前にしても、物語を思い描いて劇を作り上げ、再会を誓い合う人々を描いています。形あるものは壊れるけれど、形のないものは心に残る、という台詞は、皆さんがこれから作り上げていこうとする演劇に向けられた言葉であると思って、この二日間、皆さんと時間を過ごしてきました。皆さんが演劇を続けていく限り、この国の平和はまだまだ大丈夫だと思える二日間でした。そんな思いを抱くことができた素晴らしい二日間をありがとうございました。